不動産のプロも騙される「地面師」の手口。詐欺について考察

詐欺の起源は、人間が生きるために、必要に応じ自在に変化させる知恵を身に着けた時に始まる。
原始時代、狩りのため掘った穴の表面を草で覆う仕掛けなど、獲物に対する詐欺と言える。 明治に入り開拓団として北海道に入植した本土の日本人が、当時3つまでの数の概念しかなかったアイヌに対し、物々交換の数量を誤魔化して搾取していた話は有名だ。

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詐欺にダマされる人々

一口に詐欺といってもその手口はさまざまである。ほぼ単独犯の寸借や結婚から、グル―プで行う手形や偽装倒産の商事。海外での養殖や未公開株・社債等の投資。最近ではオレオレや還付金に至るまで詐欺の種類も多岐に渡る。
その中で特に土地に専科した詐欺師を地面師と呼ぶ。先般、国内大手のハウスメーカーが土地取引で、55億円を超える詐欺被害に遭ったニュースが巷を騒がせた。近年の土地価格の値上がりにより、地面師の動きが活発になってきているという。

昭和の中頃から平成バブルが弾けるまでの地面師の手口は、所謂原野商法が一般的であった。熊笹が生い茂るような二束三文の土地を、「近年開発が予定されており、着工されれば価格は何倍、何十倍にもなる。」と甘い言葉で誘って売り抜ける手法だ。騙された被害者の多くは、今でも転売の当てがなく、渋々毎年固定資産税だけ払い続けている。最近では、この被害者を狙って「土地を買い取りたい。」と話を持ち掛け、買付証明書まで発行して信用させたうえで、事前の測量や調査費の名目で百万単位の金を騙し取る手口も確認されている。買付証明書など一流企業の発行ならそれなりに信用も出来るが、名も知らぬ会社の発行書では、それこそ二束三文の価値もない。会社の実態等は、法務局で商業登記簿を確認したり、管轄の宅建協会に問い合わせでもすれば分かることだが、金のペーパー商法で投資家から数千億円の金を騙し取り、最後は社長が殺害された、豊田商事の「金預かり証書」同様、仰仰しく押された会社印が放つ、黄金色の書面にコロリと騙されてしまう。「泣きっ面に蜂」とは正にこのことだ。
まぁ、こう言っては申し訳ないが、いつの世も騙される人間には、回数の上限がないようだ。

不動産のプロが騙された!「地面師」の手口とは

さて、最近の地面師の手口はと言うと、前述のハウスメーカーで使われたやり方が主流だ。つまり土地所有者への「成りすまし」だ。最初、地面師は、都市部の一等地で虫食いのようにぽつんと一区画だけ空いているような土地を方々物色し、候補地をリストアップする。そして登記簿で所有者の現住所や権利関係等を洗いざらいチェックし、所有者が高齢で権利関係に面倒がなく、かつ遠方に住んでいて現地確認も儘ならぬ物件を選び出して、詐欺のお膳立てを始めるのだ。準備としては、まず所有者本人に成りすます人物を探し出す。
これは、温泉旅館に住み込みで働いているような訳アリな者を、裏社会を通じて紹介してもらえば、いとも簡単に見つかる。この役目は、後にほぼ間違いなく逮捕されることになるが、世の中には多額の借金の棒引きを条件に喜んで引き受ける人間がいくらでもいるのだ。現に前述の事件で、所有者に成りすました女が逮捕時に、それは覚悟の上と言わんばかりの不敵な笑みを口元に浮かべる、大胆な態度がテレビに映し出されていた。

話を戻すが、かようにして代役が決まれば、次にこの人物が売買契約で登場する当日に、相手側にばれないように教育する係の出番となる。所有者の生年月日、干支から中学時代に憧れていたスターなど咄嗟に答えられるよう入念な教育が施される。こうしている間に、偽造書類作成係によって偽造された書類一式が出来上がる寸法だ。運転免許証、パスポート、住民票、印鑑登録証明書、固定資産税通知書等である。そして準備万端、首尾よくパクリの本番当日を迎えるのだ。取引が高額になる場合、契約時には通常売主側でも弁護士、司法書士等専門家を揃え、立ち会わせる。
当然この事件でも、買主に疑問を抱かせないよう地面師側が用意した弁護士、司法書士も立ち会っているはずだが、実は、この先生方も地面師とグルの場合が少なくない。最も、たとえグルだとしても、先生方が逮捕されることなど、まずあり得ない。
なぜなら、詐欺罪とは、自分が初めから騙そうとして、その行為を行ったものでなければ成立しない。要は内心の問題なのだ。法律を熟知している専門家が間抜けなドジなど踏むはずはない。たとえ捜査員や検察官に詰問されたとしても、「知らなかった。騙すつもりなどなかった。」と言えば、それまでなのだ。
余談だが、因みに、よく法廷で熱血イケメン、美人弁護士が冷徹な検事とやり合った末、見事容疑者の無罪を勝ち取って、「めでたし、めでたし」で終わるドラマを見かけるが、現実には有り得ない。検察は99.9パーセントの確率で有罪が見込める場合でも起訴はしない。つまり検察が起訴をするということは、有罪100パーセントが二往復するくらい確実なものなのだ。検察が起訴して、無罪の判決など出たら面子にかかわるし、第一に担当検事は無能の烙印を押され、出世の道は閉ざされてしまうだろう。

またも脇道に逸れたが、話を戻す。今回の詐欺事件の場合、住民票が揃ってなかったり、成りすまし役の女が、干支を言い間違えたりしている。もし、この時相手を冷静に観察するゆとりがあれば、当日に被害を回避する道は残っていたはずだが、どうしても手に入れたいという欲が、被害回避の道を塞いでしまったと言える。
結果、契約は成立し、法務局に所有者移転の登記を申請した時点で、窓口から印鑑証明の偽造を指摘され、ようやく騙されたことに気が付いたのだ。殆どの場合、契約当日に売主側が、買主側に渡す書類と金銭(小切手等)の受け取りは同時に履行される。この時もおそらく書類、金銭のやり取りから、法務局で偽造が指摘されるまでの時間は、僅か数時間程度だったと予想されるが、これも地面詐欺を企てる連中にとっては百も承知で、後はシナリオ通りにさっさと小切手を現金化してドロン。気付いた時には万事休すだ。

この事件で、ハウスメーカーの社長が引責辞任に追い込まれたが、新聞等では、商談が進む過程で、取引に疑問を呈する部下もいたという。しかし、この社長はワンマンだったのだろうか、部下が率直に進言できるような雰囲気には程遠い会社だったのかも知れない。結果こうなっては、社長に辞任でもしてもらわない限り株主とて、すんなりと総会を終わらせてはくれまい。

この事件では、8人が逮捕され、海外に逃亡した1人が指名手配されたが、 55億円の金はもちろん返ってなど来ない。

女社長で有名なあの大手ビジネスホテルも詐欺の餌食に・・・

実は、これと前後して都内の某総合病院と大手ビジネスホテルが別な地面師から其々数十億円に上る詐欺被害に遭っている。大手ビジネスホテルの場合、有名女社長が世間に恥と醜聞を晒すだけだとして、あまり表だった発表はしていない。戻って来ない金の行方に拘るより、さっさと損金扱いにして節税した方がましとの判断だ。
損害賠償の民事訴訟にも弁護士費用など、決して安くないお金と時間が掛かる。そういった意味では、合理的判断とも言える。

さて、ここでもう一つの可能性だが、もし、この時すんなり登記がなされていたらどうなっていたであろうか?詐欺に利用された土地には、おそらく分譲マンションが建設され、一部は億ションとして売り出されることになったはずだ。
一般にマンション等の不動産を購入する場合、信用の根幹は法務局で発行する登記簿謄本になる。買主は、ここで表題や売主の権利関係がきちんと登記されていることを確認して、購入の是非を判断する。
しかし、この登記が事実と相違していた場合、たとえそれを信じて不動産を購入したとしても、購入者に利益の保護はない。元々偽装による登記の場合、真の所有者が申し出をすれば、登記は無効となる。「取消し」ではなく、初めから無いものとなる「無効」なのだ。
不動産登記には対抗力はあるが、根本の公信力はない。つまりニセの申請書類で登記され、登記簿謄本で別人の所有となっている物件を善意で(知らずに)購入したとしても、それを信用したあなたが悪いとなる。
何とも無慈悲な話だが、残念ながら日本の法律が適用される場所ではこうなってしまう。現実に世の中には、このような土地を買って、泣き寝入りしている人も少なからずいる。

もう、誰も信じられない

では、一体何を、誰を信じればいいの?となるが、究極を言えば、土地については、何も、誰も信じられないということに、ならざるを得ない。

そう言えば、弁護士や司法書士等の専門家が手広く不動産事業を展開しているという話はあまり耳にしないが、それは専門家故にリスクを知り尽くしており、他人のもめ事の相談は受けても、自分自身は近づかないのであろう。ここでは長くなるので記さないが、土地には他にも様々な落とし穴が存在する。地面師は、この穴の表面を綺麗に覆い隠し、上手に獲物を落とし入れようとするのだ 。

詐欺にダマされる人間の愚かさ

こういった意味では、原始時代から現代に至るまで詐欺の手口は変われども、騙す側の根本心理に変わりはないということだ。そうなると、騙される側もノコノコと穴に近づき落ちてしまう獲物と変わらないということになるが、どうであろう?
だいたい土地などと言うものは、元々微生物のような生命が誕生するよりも遥か以前に、要は地球が誕生した当時からあっものだ。それが、人間という生き物が現れてから、「ここは私の土地だ。いや俺の土地だ。」とやり合うこと自体アホらしいと思えなくもない。
そんなくだらないトラブルに巻き込まれて、大切なお金や、まして人生を楽しむ貴重な時間を奪われてしまったら、取り返しのつかない損失だ。人生は有限、時間は戻ってはくれない。  いずれにしても、自ら望んで土地にかかわるときには、くれぐれもご用心を・・・・・だ。

伊豆井ヤンベルの考察まとめ

最後になるが、世界を股にかけて暗躍する超一流の詐欺師によれば、一番騙され難いのは、ギリシャ人で次が中国人だそうだ。世界の名だたる詐欺師でも相手がギリシャ、中国人となると諦めると言う。どちらの国も長い歴史の中で、栄華と辛酸を繰り返し味わって来ている。そういった積み重ねが騙されない気質を涵養させてきたのだろう。

では、彼ら詐欺師にとって日本人はどう見えるのだろう。 島国根性丸出しの騙し易い連中とでも考えているのであろうか?機会があったら聞いてみたい。まぁ、そんな機会はあり得ないだろうが・・・・・
もっとも仮に実現したとして、ペテン師の話をどこまで信じるかは、また別な話になる・・・・・